序盤1階・初めての戦闘
PTを組んだプリーストの優羽とシーフのリマは、塔の一階へ入るべく、塔の入口へと進む。
塔の扉の前に来た二人は、Keyと描かれたレリーフの真ん中に鍵穴らしきものを見つけた。
もちろん、そこに挿すための鍵など持っていないので、そのまま扉を開けようと押してみる。
エルフの双子が入っていったのと同様、リマが扉に手を触れるだけで、ゴゴゴゴとうなりをあげ扉は自動で開いていった。
リマは、完全に開いた扉の前で、中に入る前に一度優羽を振り返り存在を確認したかと思えば、小さくうなずき塔の中へと足を進めた。
「慎重にいきましょう」
自分にも言い聞かせるように、優羽にも聞こえるように、ドキドキを隠すかのように声を出す。
死んだらゲームオーバー。
大会常連のリマですら、塔に入る前はそんな言葉が頭をよぎる。
ま、そんな序盤からやられないわよ。
と、少し緩く考えて塔の中へと足を進める。
優羽はというと、ビクビクしながら周囲をせわしなく見渡していた。
リマの後をぴったりくっついて進む。
「リマぁ…罠ってあるって聞いたんだけど…」
「あるよ。だからシーフに感知のスキルがあるの。プリーストの治癒と同じように、シーフは全員に感知のスキルは持っているんだよ」
「それじゃあ塔を歩く時は感知を使いながら進むの?」
「今は使ってないよ(笑)まさかそんな序盤から初見殺しのような罠はないって」
「そういうものかぁ。って初めての塔に聞こえないね」
「まぁ四回目だからね。今までの大会にも参加してきたんだよ。その経験から言って、序盤に強い敵はいないし、罠もない。勝負は上層階だけかな」
「ふえええ」
「だから序盤でどれだけ稼げるかがポイントかな。大会の序盤でしか売れないアイテムってあるもんだし、その流れに乗る事が大事、ね」
最後の言葉につまった所を見て怪訝に思う優羽。
「何か他に気になることがあるの?」
「いや、おでまし、よ」
感知スキルを発動していたリマには、前方の横手の路地から一体のグールをおぼしきヴィランが出てくるのに気付いた。
感知スキルで先に相手に気付いたことで、ヴィランはこちらに気付いていないようだ。
「先制できるみたいだから、気付かれないうちに盗むを使ってみよう。もし被弾したら治癒お願いね」
とリマは優羽に言い残し、行動を開始する。
のたのた進むバランスの悪そうなグールのやや後方から素早く間合いを詰めるリマ。
この辺りの敏捷性はさすがシーフだ。
こんな手に何ももってなさそうなグールから何を盗めるのかは知らないが、そこはゲームの中だ。
試してみる価値はある。
シーフの盗むスキルは、発動させたら相手に一度触れる必要がある。
タッチするだけで盗むの成否が判定され、成功ならインベントリにアイテムが入る仕組みだ。
グールの背中に素早くタッチし、すかさず後退する。
インベントリにはダガーの文字が。
「らっき。いきなり使える武器が」
ダガーは初歩的な武器だが、素手よりは何倍もマシだ。
視界の端にうつるインベントリボタンを目で操作し、インベントリからダガー装備を選択。
ダガーは手に具現化された。
柄の固さを手で確かめるように左手右手とダガーを持ち替え、振り向いたグールと対峙する。
グールはさすがにこちらに気付いたようだ。
優羽は見てるだけ。
リマとグールの対峙も短く、リマが素早く間合いを詰め、まず手足から斬り刻んでいった。
動きの遅いグールに何もさせず、とどめの一撃をグールの胸に突き立てる。
戦闘はあっという間に終わった。
「ごいすー。玄人みたいだ。」
優羽が率直な感想を漏らす。
「玄人、ではあるかもよ(笑) さすがに大会四回目だしね。まぁドラゴンとかが相手だときついけど」
「ドラゴンっていったら炎を吐く竜、だよね。見てみたい気持ちもある(笑)」
「冗談でも会いたくないね(笑) 炎もすごいけど、とくに尻尾も警戒対象だよ。あのスピードある尻尾薙ぎ払いは簡単に骨砕けるわ。ま、そんなドラゴンに会うためには、今できる事は資金集めだね」
コクコクと優羽はうなずく。
「まずは序盤で戦闘に慣れておくのと、アイテム集めに努めよう」
塔の中は迷路のようになっていて、ほどほどに広さもあるようだ。
街までの帰り道を記憶しつつ、マップを埋めておきたい。
マップは誰もが見る事ができるが、自分が踏破した場所しか表示されない。
一階の全貌はわからず、広さも実のところわからない。
どこかにフロアボスがいるのは確かだ。
塔の次の階に行くには、どこかにいるフロアボスを倒してKeyを奪い、そのキーを使って階段へと続く扉を開けるのだ。
その後、得体のしれない色をしてスライムや、小人のようなスケルトン、突進のみの猪などと遭遇し、撃破していった。
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