序章
キャラクターエディットは、本来なら一番迷うところだ。
なぜなら、KeyPlayersでは職業の変更は途中で出来ず、エディットした職業で最後までプレイする必要があるからだ。
各基本職業の上級職は用意されているが、要求が厳しいため、上級職になるのは骨が折れる。
莉真は過去大会でキャラクター名を「リマ」と、自分の分身のように名付けプレイしてきた。
今回も同じように「リマ」と打ち込み名前を付ける。
職業もシーフを選択。
と、ここで前回大会との違いに気付く。
「ステータスポイントが最初から割り振れるようになってる…。
そうなのだ。
ステータスは主に力と敏捷、精神と知識、そして運の5項目ある。
前回大会まではここがランダム要素になっていて、キャラガチャと呼ばれる要因となっていた。
「まぁ、ステータスはシーフでも狩れないと先に進めないわよね。力は必要、ダメージを避ける前提で敏捷、といったところかな」
と、ここまで考えて…ふと思い出した。
前回大会のランキング上位者のステータスのことだ。
上位者はこぞって運が平均値以上あった。
運は何のステータスか名言されていないが、このことから重要ステータスではないのか、ということが予測できる。
「敏捷はシーフは元々高いから、そうね…力に振りつつ、残りは運に振ってみようかしら」
時間は夜の22時。一人暮らしの莉真は雨戸を全て締め戸締りを万全にし、部屋は真っ暗PCだけが光る中、ゲームへのダイブを試みる。
重々しいヘルメットのようなヘッドギアを装着した。
ヘッドギアは、プシュプシュ言って一旦大きく広がり、次第に莉真の頭に沿うように形を変えて密着し、そこで莉真の意識はゲームの中へと接続されていった。
塔の入口
ゲームへと接続されたリマは、真っ暗で何も見えない空間で目覚めた。
次第に目の前に、KeyPlayersのロゴが現れ、何かの映画で見たようなワープホールの中かのように周囲ごと吸い込まれた。
光に包まれると、次の瞬間には2つのそびえたつ塔が見える街らしき入口に立っていた。
前回大会まで参加してきたリマはまずそこに驚いた。
「今回からは街からのスタートなのね。今まではいきなり塔の中で素手でヴィランと戦わされたけど。さすがにあれだけ指摘されていればね…。」
そう、前回大会までは、スタートはいきなり塔の中だった。
スタート地点は塔の中でなおかつランダムで、HPを回復できる宿、つまり街まで辿り着くことができず散っていくプレイヤーがいたものだ。
スタートから運要素が強すぎるという非難が相次いだ。
「とすると、闘いの準備をして塔に挑めるのかしら」
と思い、なにげなくインベントリを見てみると、「0gold」の文字が見えた。
つまり何も持っていない。
「そう簡単じゃなかったわねこのゲームは」
まずは金策かな、と呟きつつ、街へと足を向ける。
街に入ってみると、すでに他のプレイヤーとおぼしきキャラなどで通りは賑わっていた。
赤い実を売る露店や液体の入った小瓶が並ぶ商店など、ここはNPCからアイテムを買うことのできる商店通りのようだ。
前回大会までの経験を元にすると、序盤の金策は「お使いクエスト」を酒屋で受注し、こなして報酬を得る、それがリスクもなく小金を稼げる方法ということは分かっている。
しかし、リマは他に考えがあった。
「キャラクターエディットの時にシーフを選択するのは、「盗む」があるからなのよね。ついでに「鑑定」も取っておいたし、ヴィランから「盗んで」「鑑定して」売る、序盤は楽ができるかもね~」
キャラクターエディット時に職業を選択する。
その際、職業ごとに決められた5つのスキルのうち2つを覚えることができる。
シーフは、盗む・投擲・煙幕・忍び寄る・鑑定の5つ。
その他に、シーフなら感知、のように必ず覚えているスキルも一つある。
選んだスキル以外を習得するにはスキルポイントが必要だが、このポイントもそう簡単には獲得できないので、最初の選択が生き残りを左右すると言っても過言ではない。
死んだらそこで試合終了、ゲームオーバーだ。
慎重にゲームを進める必要がある。
といっても、リマはこの大会の開始をワクワクしっぱなしで待っていた。
色々試さずにはいられない。
「盗むの成功率次第で今後の備え方も変わりそうね。まずは弱い適当なヴィランに試してみましょう」
と序盤の進め方をリマらしく決め、賑わう通りを横目にそそくさと抜け、ドーンとそびえたつ塔の入口へと向かう。
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